神経血管圧迫症候群とは、三叉神経や顔面神経などの脳神経を血管が圧迫することで症状が出現する疾患の総称です。代表的なものとして三叉神経痛、顔面けいれん、舌咽神経痛などがあります。当科でもこれらの疾患の治療を行っております。
三叉神経痛は顔面に強い痛みを生じる疾患で、顔の感覚を脳に伝える三叉神経に血管が接触・圧迫することで発症します。また、血管の圧迫がはっきりしない場合、腫瘍により圧迫を受けている場合もあります。
・片側の顔面に激しい痛み(電撃痛と表現されます)を生じます。
・奥歯のあたりや頬、時にこめかみに痛みがあり、歯磨きや食事、会話などで誘発されることが多いとされています。
・発作的に生じて数十秒程度で治まる痛みを繰り返します。時に数ヶ月痛みが出ないこともあります。
典型的な三叉神経痛では問診が重要です。顔の片側の特徴的な痛み(電撃痛、発作痛)を聴取します。また、下記に記載しているカルバマゼピンという内服薬を試してみて、効果を確認することも有効な手段です。
検査ではCTやMRIで神経と血管の接触の有無、腫瘍の有無などを確認します。典型的な動脈圧迫が見られる場合は手術による効果が高いと予測されるため、治療方針の決定にも役立ちます(下図)。
MRI画像で神経と血管の位置関係を確認
3次元再構成画像で実際の手術視野に近い画像シミュレーションが可能です。神経と血管の接触もよりわかりやすく表示されます。
薬物療法、神経ブロック、手術、放射線治療があります。
薬物療法:カルバマゼピン(テグレトール)という薬で痛みが取れることが特徴です。しかしだんだん効果が小さくなって薬を増やす対応が必要になったり、副作用により内服できなくなる事があります。その他に抗てんかん薬(フェニトイン)、神経障害性疼痛治療薬(リリカ、タリージェ)、漢方薬(五苓散など)が処方されることもあります。
神経ブロック:三叉神経の周りに麻酔薬などを注射して痛みを取る方法です。即効性がありますが、効果が切れると注射を繰り返す必要があります。
放射線治療:三叉神経にガンマナイフなどの定位放射線を照射する方法です。体への負担が少ないため、全身状態が悪く手術を受けられない方や高齢の方でも治療可能です。およそ
6~8割程度の患者さんで痛みが軽くなるといわれていますが、再発することもあり副作用として顔面の感覚障害(しびれ)が生じる事もあります。
手術:手術用顕微鏡や神経内視鏡を用いて脳神経減圧術(微小血管減圧術ともいいます)という手術を行います。
・痛みのある側の耳の後ろから皮膚切開をおいて開頭し、脳のすき間を通って神経と血管の接触を確認します。
・血管を神経から移動させて、再度接触しないように固定します。
・もしくは神経と血管の間に緩衝剤を挿入する方法もあります。
神経内視鏡は神経により接近して観察できるため、詳細に血管圧迫を確認することが出来るようになっています。また、手術顕微鏡では見えにくい神経の奥も観察しやすい利点があります。当科では積極的に神経内視鏡を使って手術を行っており、より安全で確実な手術を提供しています。(図)
神経内視鏡の術野画像(圧迫血管の移動前)
圧迫血管の移動後
手術治療は他の方法とは異なり三叉神経痛を根治させることが出来る治療です。MRIで動脈による神経の圧迫が見られる場合、手術で9割以上の方が治癒すると報告されています。強い痛みのために生活が制限されていた方にとって、痛みを気にしなくてもよくなるため大変有効な治療法です。一方で体への負担、手術リスク、入院の必要(手術治療の入院期間は約2週間です)がある治療法でもあります。どの治療が良いかは患者さんの希望やお体の状態により異なりますので、一緒に相談しながら決めていくことが重要です。三叉神経痛でお困りの方は是非外来でご相談ください。
片側顔面けいれんは片側の眼の周りや口の周りの筋肉が、自分の意思とは関係なく動いてしまう病気です。三叉神経痛と同じく、顔面を動かす神経(顔面神経)に血管が接触・圧迫して生じることの多い疾患です。片側や両側の眼の周りだけがけいれんする眼瞼けいれんとは異なりますが、症状が似ているため混同されることも多く、専門医による診断が必要です。
・はじめは眼の周りのけいれんで始まることが多く,次第に口の周りにも広がっていきます。
・ひどくなると目を開けづらくものが見にくくなり、車の運転など生活に影響がでます。
・症状を他人に見られてしまうことを気にされる方も多数いらっしゃいます。
顔面けいれんでも問診、視診が重要です。いつからどのような症状が現れて変化したか、片側か両側か、けいれんしている部位はどこか、などを診察します。
検査ではCTやMRIで神経と血管の接触の有無を確認します。三叉神経痛と同様に、神経の周囲を詳細に観察する撮影を行います。(図)
左顔面けいれんのMRI画像
3次元再構成画像では神経の根元に血管が食い込んでいる様子が明瞭に映し出されています
薬物療法、ボツリヌス治療、手術があります。
薬物療法:顔面けいれんに有効な内服薬は今のところありません。下記のボツリスヌ治療や手術を希望されない場合に、対症的にカルバマゼピン、クロナゼパム等の抗てんかん薬やガバペンチンなどのGABA作動薬、筋弛緩薬、向精神薬を用いることがあります。外来で簡便に開始できる治療法ですが、いずれの薬剤も効果は乏しいことが多いとされています。
ボツリヌス治療:けいれんしている目や口の周りにA型ボツリヌス毒素製剤を注射します(当院では眼科で行っています)。けいれんを止める効果は約4ヶ月といわれており、根治させる治療ではありません。そのため効果が切れるたびに注射を繰り返す必要があります。
手術:三叉神経痛の手術と同様に、顔面神経から圧迫血管を異動させる手術を行います。
・痛みのある側の耳の後ろから皮膚切開をおいて開頭し、脳のすき間を通って神経と血管の接触を確認します。
・血管を神経から移動させて、再度接触しないように固定します。
・もしくは神経と血管の間に緩衝剤を挿入する方法もあります。
神経内視鏡は、手術顕微鏡では見えにくい神経の奥も観察しやすい利点があります。顔面けいれんでは神経と血管が接触している部位が見えにくいという形態学的特徴があり、特に神経内視鏡を使った手術が有効です。(図)
顕微鏡術野に比べて内視鏡術野では神経と血管により近接して観察可能で、圧迫部位も確認しやすくなっています
顔面けいれんに対する根治的治療は手術であり、手術による効果は8-9割程と報告されています。入院期間は2週間程度です。
顔面けいれんは命に関わらない疾患です。しかし日常生活や患者さんの心理に影響を与える疾患でもあります。治療を行うか行わない(経過観察)か、どの治療法を選択するか、患者さんが主体となって決定していただく事が重要です。そのために必要な情報を提供して、最善の治療法を決めるお手伝いをさせていただきたいと思います。