・杏林大学医学部付属病院は東京都三鷹市に位置する多摩地区唯一の大学病院本院です。当院は特定機能病院として、地域がん診療連携拠点病院でもあり、約400万人の背景人口をカバーする地域医療の重要な役割を果たしています。その一環として、脳腫瘍に対してもアカデミアならではの高度医療の提供と多数の臨床試験の実施施設として国内最大規模の脳腫瘍センターの位置づけにあります。
・杏林大学医学部付属病院脳神経外科での原発性悪性脳腫瘍(髄膜腫・下垂体腺腫などの良性脳腫瘍は除く)の治療患者数は、2010年以降年間100例以上にのぼっております。
・原発性悪性脳腫瘍の内訳は、神経膠腫が最も多く150〜200人の診療を続けており、年間の治療患者数も70〜100人規模となっています。次いで、原発性中枢神経系悪性リンパ腫は、80〜100人の診療を行っており、年間の治療患者数は約30人程度と国内有数の治療実績となっています。
・当施設では原発性悪性脳腫瘍に対する薬物療法を積極的に行っており、例年約100人の治療実績となっています。各種薬物療法の総投与サイクル延べ回数は、2013年以降、毎年年間500サイクルを超えています。
脳腫瘍の治療では、まず腫瘍の診断、あるいは手術で可能な範囲で腫瘍を取り除くために手術が行われます。最近では、手術の安全性と正確さを高めるための多機能的な手術支援システムが導入されています。
主な技術には次のようなものがあります。
術中モニタリング:手や足の動き、感覚、聴力などに関わる神経の反応をリアルタイムで確認し、後遺症をできる限り防ぐ。
蛍光診断(5-ALA法):特殊な薬剤で腫瘍部分を光らせ、正常な脳組織との境界を見極める。
ナビゲーション:MRIなどの画像を使い、脳の立体的な位置を正確に把握しながら腫瘍を摘出する。
覚醒下手術:言語や運動をつかさどる重要な領域に近い場合、患者さんが覚醒した状態で会話や動作を確認しながら手術を進める。
また、PETなどの画像検査で腫瘍の活動が強い部分を把握し、手術の計画に反映する方法も一般的になっています。これらの技術の組み合わせにより、より高い精度で腫瘍を安全に摘出できるようになってきています。
一方で、脳の深い部分や重要な神経に近い位置にある腫瘍では、定位生検術と呼ばれる方法で針を使って少量の組織を採取し、確定診断を行います。
a)初発時治療:
・最も悪性度が高い神経膠腫の膠芽腫に対しては、標準治療の術後放射線治療(60 Gy/30回分割)+テモゾロミド連日服用の同時併用療法とその後の維持TMZ単独療法(5日間連日服用/28日周期、〜12サイクル)(=Stuppレジメン)を行います。高齢者に対しては、放射線治療による遅発性脳障害を考慮し、40 Gy/15回分割、あるいは25 Gy/5回分割などの減量照射を行っています。また、維持療法に際しては、標準治療の腫瘍電場療法も適格患者さんには併用しています。
・術後残存腫瘍量が多い場合や、腫瘍による脳浮腫が高度など、患者さんのADLが低い場合、術後より、ベバシズマブの併用も検討されます。
b)再発膠芽腫
・薬物療法としてはベバシズマブを標準的に使用します。再発部位や病状によっては、再手術や放射線治療の再照射も検討されます。
・WHOグレード3の腫瘍には、Stuppレジメンを行うことを原則としています。
・Grade 2の場合は、摘出度やその他の予後因子を考慮して放射線治療を待機する場合や化学療法も含めての経過観察も患者さんごとの検討を行います。
・通常WHOグレード3の腫瘍に対して放射線治療(59.4 Gy/33回分割など)後にPAV(プロカルバジン+ACNU+ビンクリスチン)併用療法を6サイクル実施します。
・Grade 2の場合は、放射線治療を待機とし、化学療法単独(PAV)の方針としていますが、摘出が良好な場合は、経過観察とすることもあります。
・Stuppレジメンを基本的には適用しています。状況に応じてBEV併用も考慮されます。
・摘出が基本となります。
・BRAF V600E変異型の神経膠腫に対しては、保険適用下での分子標的治療薬も適格例には実施できるようになっています。
・神経膠腫に対しては、国内・国際共同の治験・臨床試験が実施されており、試験の対象となる場合は、積極的に試験への参加を推奨しています。(後述参照)
悪性脳腫瘍に対する放射線治療は、原則として放射線治療部にて術後局所分割照射を施行しています。
1) 高齢者神経膠腫:寡分割照射 (40.05 Gy/15回分割)または、25 Gy/5回分割)
2) 再発悪性神経膠腫:追加照射としては院内でIMRTを用いたSRTの導入(放射線治療部)。
3) 転移性脳腫瘍:病巣の個数や病態などにより、全脳照射、あるいはIMRTを用いた分割局所照射などを放射線治療部と相談し実施しています。
AMED研究班:Japan Clinical Oncology Group (JCOG)脳腫瘍グループで実施している多施設共同臨床試験に代表施設・研究分担施設として実施・参加しています。
①テモゾロミドとACNUを比較する臨床試験(SANTA)
①対象:初回再発・増悪膠芽腫
②デザイン:ランダム化第III相試験
③治療アーム:ベバシズマブ単独 対 用量強化テモゾロミド およびベバシズマブ
④研究代表者:杏林大学 永根;研究事務局:小林(主)、永根(副)
⑤先進医療B制度の下実施。2025年5月の米国臨床腫瘍学会で結果発表済み
①対象:初発膠芽腫
②デザイン:ランダム化第III相試験
③治療アーム:全摘出後の、ギリアデル留置 対 非留置
①対象:71歳以上の初発膠芽腫の摘出後
②デザイン:ランダム化第III相試験
③治療アーム:テモロゾミド併用放射線療法 40.05 Gy/15回 対 25 Gy/5回
①対象:初発膠芽腫
②デザイン:ランダム化第III相試験
③治療アーム:造影増強病巣周囲のFLAIR高信号部の拡大摘出 対 造影増強病巣の摘出
①対象:IDH変異型星細胞腫グレード3、90%以上摘出例
②デザイン:ランダム化第III相試験
③治療アーム:経過観察後再発時摘出または放射線療法/テモゾロミド 対 放射線療法/テモゾロミド
・初発膠芽腫に対する、放射線治療+テモゾロミド±腫瘍電場療法のランダム化第III相試験
・初発膠芽腫に対する、放射線治療+テモゾロミド→維持テモゾロミド±ペンブロリズマブのランダム化第III相試験